定置網漁業を営む日高家と知り合えたのは偶然の紹介であるがある意味必然だったのかもしれない。
延岡地域の水産物流通の調査をしている中で、付加価値を付けるために独自の販売に取り組んでいる生産者がいると聞き訪ねてみてびっくりした。

当時私は大学院生の研究指導を兼ねて各地の定置網漁業の経営実態について調査を行っていて、今日の定置網漁法の直接の原形となったのが日高式定置網であったことは知っていた。
しかし紹介されたのが日高式定置網の本家本元と聞き、驚いてその後知り合いの研究者にそのことを話したほどである。
それほどに日高家という名は漁業研究者の間では有名な存在である。

日高家と同様に定置網で財を築いた漁業経営者は各地に少なからずいるが、その漁法を考案してその後の漁業技術の基礎を築いたと言う意味で、他の経営者とは一線を画する存在である。
この定置網漁業は、単に個人が利潤を得るためだけの漁業ではなく、働く機会も限られた沿岸漁村で多くの住民に働く機会を提供し、新鮮な漁獲物も提供して漁村の生活を支えると同時に独自の漁村文化を築いてきた。
いわば定置網は漁村の村立基盤として存在してきたと言える。

とくに日高家の場合は、多くの著名な文化人との交流も深く、失礼ながらこんな田舎に高度な文化の薫りを持ち込んだと言う意味で特筆される存在である。
近年、魚価低迷や漁獲不振にあえぐ生産者が、独自の販売取り組みを通じて何とか収益確保を目指そうという動きが全国的に見られるが、当家のように伝統に裏打ちされた高度な調理技術により完成度の高い商品を提供しようという動きは他には見られない。

さらにこの料理を、文化の薫り漂う日高邸で、日高式定置網の歴史に思いを馳せながら楽しめるというのは、通常の料亭とは異なる希有な体験といえる。